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裁判員候補者に選ばれたら(裁判員選任手続き)

裁判員選任手続き

裁判員候補者になる可能性は、毎年352人に1人。1事件あたり候補者100人として、裁判員候補者は約29万5000人になります。各地域ごとに決められるので、確率は地域により異なります。最高は、大阪地裁の211人に1人、最低は秋田地裁の786人に1人で、その格差は3.7倍です。

選任手続きの流れ
前年の12月ころまで

地方裁判所ごとに管内の選挙管理委員会がくじで選んで作成した名簿に基づき、翌年の裁判員候補者の名簿を作成します。裁判員候補者名簿に記載されたことが、各人に通知されます。この時に就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかなどを尋ねる調査票が送付されます。

記載の通知(※最高裁資料)
送付されるパンフレット(※最高裁資料)
調査票の回答票(※最高裁資料)
送付されるものについて(※最高裁資料)

裁判の6週間前まで

事件ごとに、裁判員候補者名簿の中から、くじにより裁判員候補者が選定されます。その事件についてくじで選ばれた裁判員候補者に選任手続き期日のお知らせ(呼出状)が送付されます。この時に、辞退事由の有無などを確認するための質問票も送付されます。

質問票(※最高裁資料)

裁判の当日=選任手続の日

呼出状で指定された選任手続の当日、裁判長から裁判員候補者に対して、辞退希望の有無、理由、不公平な裁判をするおそれの有無などについて質問がなされます。この選任手続は、非公開で行われます。

弁護人と検察官は、それぞれ4人まで理由を述べることなく、不選任請求をすることができます。また、裁判長は、不公平な裁判をするおそれがある裁判員候補者を不選任決定することができます。

不選任になった裁判員候補者を除いた人たちの中から、くじで6人の裁判員が選任されます。必要な場合は、他に数人の補充裁判員も選任されます。

裁判員に選任された場合は、宣誓を行います。この宣誓を理由なく拒むと過料10万円になる規定があります。

裁判員になれない場合
  • ①欠格事由(裁判員法14条)=一般的に裁判員になることができない人
    • 国家公務員法38条の規定に該当する人(国家公務員になる資格のない人)
    • 義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識を有する場合を除く)
    • 禁錮以上の刑に処せられた人
    • 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人
  • ②就職禁止事由(裁判員法15条)=裁判員の職務に就くことができない人
    • 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
    • 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士など)
    • 大学の法律学の教授、准教授
    • 都道府県知事及び市町村長(特別区長も含む。)
    • 自衛官
    • 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴され、その被告事件の終結に至らない人
    • 逮捕又は勾留されている人など
  • ③事件に関連する不適格事由(裁判員法17条)=その事件について裁判員になることができない人
    • 審理する事件の被告人又は被害者本人、その親族、同居人等
    • 審理する事件について、証人又は鑑定人になった人
    • 審理する事件について、被告人の代理人、弁護人等、検察官又は司法警察職員として職務を行った人など
  • ④その他の不適格事由(裁判員法18条)
    • その他、裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた人
  • ⑤理由を示さない不選任の請求(裁判員法36条)=検察官、弁護人とも4人まで請求できる
裁判員を辞退できる場合
1.辞退事由の規定

裁判員法は、裁判員を辞退できる場合を次のように定めています。このうち70歳以上であること、学生であることは、形式的に辞退事由にあたるかどうか明らかです(①から④の辞退事由)。しかし、「やむを得ない事由」で「裁判員の職務を行うこと又は裁判所に行くことが困難」であるかどうかは、画一的には判断できません(辞退事由⑤や政令で定める事由の場合)。

もっとも多い辞退事由は、この画一的に判断できないところになると思われます。そこで、具体的にはどのような場合に辞退事由にあたるのかということが問題になります。

<裁判員法16条の辞退事由>

  • ①70歳以上の人
  • ②地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限ります。)
  • ③学生、生徒
  • ④5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人、3年以内に選任予定裁判員に選ばれた人
           及び1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人
  • ⑤以下のやむを得ない事由その他政令で定める事由があって、裁判員の職務を行うこと
           又は裁判所に行くことが困難な人
    • 重い疾病や傷害により裁判所に行くことが困難である
    • 同居の親族を介護・養育する必要がある
    • 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある
    • 親族の結婚式への出席など社会生活上の重要な用務がある

<政令で定める事由>

以下のような事由があって、裁判員の職務を行うこと又は裁判所に行くことが困難な人

    • 妊娠中又は出産の日から八週間を経過していない
    • 同居していない親族又は親族以外の同居人を介護・養育する必要がある
    • 親族又は同居人が重い病気・けがの治療を受けるための入通院等に付き添う必要がある
    • 妻・娘が出産する場合の入退院への付き添い、出産への立ち会いの必要がある
    • 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり、裁判所に行くことが困難である
    • その他、裁判員の職務を行うこと等により本人又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずる
2.辞退事由にあたるか判断するのは裁判所

(1)調査票の返送~その年の裁判員候補者名簿に載った時

まず、裁判員候補者名簿に載った人には、名簿記載通知とともに、裁判員になれない事情などを尋ねるための調査票が送られます。ここでは、自衛官や警察職員などの就職禁止事由の有無が尋ねられます。また、一年を通じての辞退希望の有無と理由(たとえば70歳以上、過去5年以内における裁判員経験者など)、特定の月における辞退希望の有無と理由についても尋ねられます。この調査票は、辞退事由等の該当がない場合には返送しなくてよいことになっています。

2009年2月の最高裁の発表によれば、辞退の希望等で調査票を返送した人が名簿に載っている約30万人のうちの約12万5千人です。全体の約4割にあたります。このうち定型的な辞退事由にあたると判断された人が約7万人です。30万人からこの7万人を引いたおよそ22万人が実質的な今年の裁判員候補者になります。つまり、最初の調査票返送の時点で実質的な裁判員候補者が減るのです。辞退を希望する人は、調査票にあてはまる事項を記入して返送したほうが良いことになります。なお、調査票については虚偽記載(ウソを書くこと)に関する罰則はありません(次の質問票には罰則があります)。

(2)質問票の返送~裁判員候補者として呼出期日が決まった時

次に、裁判員裁判の対象事件が起訴されると、裁判所は裁判員候補者名簿の中からくじでその事件の裁判員候補者を選ぶことになります。ここで選ばれた人には、裁判所に来るようにとの「呼出状」が送られてきます。このときには、選任手続期日のほかに裁判員として裁判にかかわる日が具体的に示されます。この呼出状は、遅くとも選任手続期日の6週間前までに送ることになっています。呼出状と一緒に「質問票」が送られてきます。

この質問票には、調査票よりも詳しく事情を尋ねるとされており、「同居の親族を介護・養育する必要がある」、「事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある」、「その他、裁判員の職務を行うこと等により、本人又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずる」などの理由で辞退を希望するかどうかを尋ねることが検討されています。これらの辞退理由は、政令で定められたものです。

質問票に記載された内容から、辞退事由に当たることが明らかであれば、呼出取消しということもあります。この場合には、裁判所に行く必要はありません。

質問票に虚偽記載(ウソを書くこと)をすると、50万円以下の罰金に処せられることがあります。

(3)選任手続期日~裁判員候補者として裁判所に行く時

呼出取消しとならない限り、裁判員候補者は、選任手続期日の当日に裁判所に行くことになります。裁判所に理由なく行かない場合には過料の制裁を受ける場合があります。裁判所では、事件についての説明がされた後、辞退事由について該当するかどうか、主に裁判官から質問がされます。プライバシーの関係もあるため、この質問は個別に行われます。この選任手続きには、裁判官のほかに検察官と弁護人が同席します。

質問に対して、虚偽の答えをすると50万円の罰金に処せられることがあります。

この質問の後には、裁判員候補者の中から、くじで裁判員が選ばれることになります。しかし、ここで重要なのは裁判員候補者全員の中からではなく、不選任決定した人を除いた人たちの中からくじによって裁判員が選ばれるということです。

不選任決定には、大きく分けて三つあります。

一つは、辞退事由や不適格事由が認められる場合です。辞退事由にあたると認められれば、くじの対象者の中からはずされます。

二つ目は、検察官と弁護人が行う不選任請求の対象となった場合です。検察官と弁護人には、理由を示さずにそれぞれ4人ずつ裁判員候補者を不選任請求できる権限が与えられています。

三つ目は、裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた者にあたる場合です(法34条4項)。の判断には裁判所に裁量があり、ここで不選任になる可能性もあります。

この選任手続が行われている間、裁判員候補者として裁判所に呼ばれた人たちは、部屋で待機することになります。そして、みんながいる前で、くじで選ばれた裁判員(及び補充裁判員)が発表されるのです。裁判員制度の模擬裁判などによる運用では、不選任になった人が誰であるかは発表しないとされています。つまり、裁判員に選ばれなかった人は、自分がくじに外れたのか、それともくじの前に不選任となっていたのかわからないようになっているのです。もっとも辞退事由に該当したかどうかについては、希望者には伝えるという運用も検討されています。

このような手続で裁判員が選任されるとすると、辞退を真剣に希望する人は、辞退希望をできるだけ丁寧にあらゆる機会に裁判所に伝えることが大事になります。辞退事由にあたるとされるだけではなく、弁護士や検察官から不選任請求される可能性もあるからです。

辞退事由については、たとえば職務の重要性を証明するような資料は不要とされています。これは裁判員候補者に負担をかけないためです。しかし、辞退事由に該当するような資料を提出することは禁止されていません。たとえば、自分の職務が他の人に代えられないことを会社に一筆書いてもらうなどの方法が考えられます。そのような資料があれば、裁判所が辞退事由に該当するかどうか判断する際に参考にする可能性があります。

(4)裁判員に選任された場合

だが、辞退希望を申し出ていたにもかかわらず、裁判員に選任される場合もあります。辞退事由にあたるかどうかは、裁判所が判断するからです。裁判員に選任された場合には、裁判員として宣誓することが求められます。宣誓を拒んだ場合、裁判所が宣誓を拒む正当な理由がないと判断すれば、10万円以下の過料(過料は罰金と違い、刑罰ではないためいわゆる「前科」とはなりません)となります。

なお、裁判員に選ばれた後に、たとえば子供が急病になった等の事情があれば、裁判所に申し出れば、解任され、補充裁判員に引き継ぐこともあり得ます。

いずれにしても、辞退を希望する場合には、辞退事由にあたると思われる事情と辞退希望の意思を、できるだけ丁寧に裁判所に対して伝えるということが大事になります。

「人を裁きたくない」ということが辞退事由にあたるかは、オピニオン「裁判員選任手続きと良心的裁判員拒否」をご覧ください。



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